
御出狐(おいでぎつね)
江戸――
現在の東京都荒川区南千住の
真崎稲荷神社の縁の下に棲んでいたという狐。
揚豆腐(油揚げ)を持って、
御出で御出でと言うと現れる人懐っこい狐だったという。
寛政四年、この狐が陸奥国松前
――現在の北海道松前町へ帰ることになったので、
茶屋の娘に憑いて、
世話になったのでお礼に何か形見を書き残したいと言った。
茶屋の主人が扇を出すと、そこに
「月は露 露は草葉に 宿りけり 夫(そ)れこそ爰(えん)よ 宮城野(みやぎの)の原」
と一首の歌を書き、娘の身体から出ていき去っていったという。