通り物
「通り悪魔」
「通り魔」
とも呼ばれ
『世事百談』や『思出草紙』などの随筆集に見られる妖怪で、
人に憑いて乱心させたりするという。
東京四谷で火事により焼きだされて仮住まいをしていたある女房が、
夕暮れに庭先で見たものは杖を付いた老人で、
ある武士が庭の手水鉢の辺りで見たのは、
三尺ばかりの炎と煙の向こうから現れた白襦袢で槍を持つ武士の姿である。
また夕方に剃刀を研いでいたある武士が見たものは、
三十数騎もの甲冑を着て槍や薙刀を持った武士の集団であった。
どれも目を閉じたり平伏したりして心を静め、
再び見ると消えているのだが、
付近に住んでいる者が乱心したという話を聞くというものである。
通り物に狼狽してしまうと、
必ず乱心してしまうというので、
心を落ち着かせる必要がある。